ケンゾウの自習室

地方在住サラリーマンの学びと思考の記録

【要約】『人口減少と鉄道』 国鉄の歴史から何を学ぶべきか?

 

 

『人口減少と鉄道』では、JR九州を右肩上がりの成長に導いた著者が国鉄の崩壊から民営化後の鉄道業界について歴史を振り返るとともに、人口減少が進むこれからの日本で鉄道業界がとるべき戦略が示されている。

 

そして、国鉄がたどった歴史こそが現代の大企業が直面しつつある問題に対処する教訓になるとも述べている。

 

 

著者の石井幸孝氏は東京大学工学部を卒業後に国鉄に入社。

 

国鉄の崩壊と民営化後の再建の歴史に立ち合い、JR九州の初代代表取締役社長に就任した。

 

2002年に退任し、現在は観光や地域活性化、国際交流などに携わりながら鉄道に関する多数の著書を出版している。

 

 

 

この記事では本の内容を簡単に要約するとともに、国鉄の崩壊と民営化後の鉄道業界の歴史から学ぶべき教訓について述べていきたい。

 

なぜ国鉄は解体されたか

国鉄が解体された理由を簡潔に述べるなら、

 

・時代の変化についていけずに赤字を出し続け

・それでも経営陣に危機意識はなく

・社員のモラルも低下し

・国民(利用者)にも見放され

・政府の介入が避けられないほど経営が悪化した

 

といったところだろうか。

 

 

 

国鉄が赤字を出し続けた理由は自動車の普及と飛行機の大衆化にある。

 

かつて日本国内の移動は、隣町でも遠方でも鉄道を利用することが基本だった。

 

それが自動車の普及で近距離移動の客を奪われ、飛行機の大衆化で遠距離移動の客を奪われ、鉄道の利用者は着実に減少していたのだ。

 

 

 

国鉄が初めて赤字に転じたのは1964年。

1949年の発足以来、初めての出来事だった。

 

1964年といえば東海道新幹線が開通し、東京オリンピックも開催された年だ。

 

戦後の復興の象徴として「世界に冠する新幹線」ともてはやされた祝福ムードの陰で崩壊へのカウントダウンが始まり、民営化まで23年間一度も黒字になることはなかった。

 

 

 

だが、そんな状況になっても経営陣に危機感はなかった。

 

「親方日の丸」なんて言いながら、最後は国が面倒を見てくれるから潰れることはないと高を括っていたのだ。

 

大蔵省や運輸省が4度にわたって経営立て直しの計画を練ったがすべて挫折し、末期には度重なる運賃値上げやストライキでますます利用者が離れていった。

 

 

 

結局、組織内部からの問題改善に期待できないことから、鈴木善幸・中曽根康弘の両首相のバックアップの下で国鉄改革に向けた委員会が成立し、ついに民営化の道を歩むこととなった。

 

 

民営化とJR九州の戦略

民営化の末、国鉄はJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6社とJR貨物に分かれていった。

 

この中で本州3社と呼ばれるJR東日本、東海、西日本は当初から鉄道輸送業だけで黒字を出すことができた。

 

鉄道の利益率は事業エリアの人口密度に正比例するため、これらの会社は勝ち馬に乗って民営化後のスタートを切れたのだ。

 

 

 

ところが、他の3エリアではそうはいかない。

 

下の画像をご覧いただきたい。

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『人口減少と鉄道』第1章より引用

JR九州、四国、北海道の3社は鉄道事業利益率がマイナスになっているのだ。

 

これは、100円の売り上げを出すとJR九州では7円の赤字、JR四国では42円の赤字、JR北海道に至っては63円もの赤字が出ることを意味している。

 

つまり、この3社は電車で人を運んでいるだけではやがて倒産するということだ。

 

 

ただ、九州では四国と北海道に比べれば赤字が少ない。

鉄道事業以外で赤字分をカバーすることで経営は続けられる。

 

そこでJR九州がとった戦略が多角経営だった。

 

エキナカ事業としてパンにアイスにラーメン、なんでも手を出した。

ただ電車で人を運ぶのではなく、駅を利用者にとって魅力あるものにし、電車に乗る「目的」に昇華させたのだ。

 

 

さらにマンションやビルの開発といった不動産業、韓国との国際航路も整備にも手を広げた。

 

JR九州は鉄道事業に固執せず、柔軟に事業を展開することで鉄道事業での赤字をカバーし、複数の事業全体で利益を出す構造を作り上げたのだ。

 

 

30年後には本州3社も儲からない

今は電車で人を運ぶだけで利益が出る本州3社も、将来安泰というわけではない。

日本の人口は減少し続け、2050年には今より24%も人口が減るからだ。

 

下の画像は、JR各社の事業エリアの人口が国全体と同じ比率で減少した場合の、2050年頃のJR6社の鉄道事業利益率の予測を示している 。

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『人口減少と鉄道』第1章より引用

現在最も利益率が高いJR東海は2050年には3分の1まで利益率を減らし、JR東日本とJR西日本はほとんど利益が出なくなると予想される。

 

「安定」の代名詞として就活でも人気の鉄道業界は、決して安定とは言えないのだ。

鉄道業界生き残りのカギは?

著者の石井氏は、人口減少時代に鉄道業界が生き残るために、事業の多角化によって交流人口を増やすことを一つの解決策として示している。

 

交流人口を増やすというのは、旅行や買い物のために電車に乗る回数を増やすということだ。

 

要するに、人口が減少しても一人一人が電車に乗る回数を増やせば問題なくね?という理屈である。

 

 

そして鉄道会社が今後も生き残るためのその他の施策として、新幹線輸送鉄道の海外輸出を挙げている。

 

 

新幹線輸送

新幹線輸送とは、文字通り物資の流通に新幹線を利用するということである。

 

 

トラック運転手の不足が叫ばれて久しい。

 

数年前、休憩をほとんど取れずに運転を続けたトラック運転手が高速道路で事故を起こしたのは、まだ記憶に残っている人も多いのではないだろうか。

 

ネット通販の利用者と利用件数は増加しており、物流の担い手不足は日本の社会問題の一つになっている。

 

 

そこで、これまで点検や修理だけに使っていた夜の時間に新幹線を動かし、物資の流通に活用すればドライバー不足問題の解決につながり、鉄道業界にとっても新たなビジネスチャンスにもなるということだ。

 

 

新幹線輸送のメリットはもちろんその速さだが、環境への負担も大幅に軽減できる。

 

新幹線で輸送する場合、トラック輸送と比べてCO2の排出量は6分の1に抑えることができ、夜間の余剰電力の活用にもつながるからだ。 

 

 

ダイヤ調整や保守作業時間の確保などが障壁として挙げられているが、新幹線輸送の実現は地方と大都市を結び付きを強め、大都市に人口が集中している問題の解決にも有効だと思う。

 

ぜひ実現してほしい。

鉄道輸出

日本ではこれから人口が減り続けるが、アジア諸国ではまだまだ人口が伸び続ける。

 

ところがそういった国々には鉄道が整備されておらず、人や物のスムーズな移動が実現されていない。

 

そうした国々に日本の安全で正確な鉄道技術を輸出することが、日本の鉄道業界のもう一つのチャンスであると石井氏は指摘している。

 

 

鉄道の整備は経済発展に直結する問題であり、日本のノウハウを海外に輸出することはビジネスチャンスであるとともに、世界経済の発展にも貢献できるのだ。

 

 

国鉄の歴史から学ぶべきこと

国鉄が赤字に転落した原因は、自動車の普及と飛行機の大衆化による利用者離れだった。

 

 

だが、崩壊にまでつながった原因はそれだけではなかった。

 

電車にいたずら書きをしたり、法律で禁止されていたストライキを行ったりと、国鉄職員のモラルの低下も大きな要因だった。

 

鉄道会社の職員が電車にいたずら書きをするなんて今なら考えられない話だが、当時はそれほどまでに職員のモラルが低下してたということだ。

 

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落書きされた国鉄時代の電車

そして末端の社員から経営陣に至るまで、慢心がはびこっていた。

 

今では乗客のことを「お客様」と呼ぶことを徹底し、顧客第一主義が隅々まで浸透しているが、国鉄時代は「利用者」「お客」と呼んでいた。

 

「親方日の丸」で利益追求の精神などなく、「乗せてやってる」という精神で電車を動かしていた。

 

だからこそ、大勢の利用者に迷惑をかけても平気で数日間のストライキを実施できたのだ。

 

そんな国鉄の姿に国民が愛想をつかした末の崩壊劇だった。

 

 ***

 

鉄道業界の歴史を学ぶと、ある業界がかつての国鉄の姿と重なった。

 

マスメディアだ。

 

マスコミもその利用者を「読者」「視聴者」と呼び、「お客様」なんて言葉はまず使わない。

 

そして最近のメディアの報道姿勢を見ていると、国民に必要な情報や真実を届けようとしているとはとても思えない。

 

政治に忖度し、税金に関わる重大な不祥事よりも芸能ニュースを盛んに報じていることがその表れだ。

 

www.kenzou-jishu.com

 

数年前に起きた芸能人のスキャンダルを引っ張り出して政治家の不祥事の隠蔽に加担する様は、公共の利益のために報道するというメディアのあるべき姿からかけ離れている。

 

利用者の利益を一切顧みなかった国鉄職員の姿と重ならないだろうか?

 

 

 

国鉄は利用者を顧みなかった結果、国民から見放されて崩壊の道をたどった。

今、メディアも同じ道を辿ろうとしているように思えてならない。

 

SNSで誰もが情報発信できるようになった結果、メディアは情報についての独占的地位を失った。

 

それどころか一般人によってメディアの不正がSNSで拡散されるようになり、メディアへの信頼は揺らいでいる。

 

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国民は気づいている。

 

「マスコミって、全然信用できなくね?」と。

 

このままメディアとしての矜持を取り戻すことなく、不正と権力への忖度を続けていけば、いつか国民に見放される時が来るのではないだろうか? 

 

そうなる前に、国鉄の歴史に学ぶべきものがあると思う。