【要約】『さらば、GG資本主義』日本経済停滞の原因は何か?

 

 

『さらば、GG資本主義』は、「ひふみ投信」で有名なレオス・キャピタル・ワークスの代表、藤野英人氏の著作だ。

 

ファンドマネージャーとして日本の経済や企業に注視し続けてきた著者が、高齢化社会が日本企業に与えてきた悪影響について解説する一方で、日本各地に「希望の光」があると指摘している。

 

 

藤野氏は投資に関する経験や哲学についてまとめた本を多数執筆しており、僕自身も投資の勉強のために彼の本を5冊ほど読んだ。

 

投資の方法や銘柄の選び方を指南するような本ではなく、投資をするにあたってどのような哲学を持つべきか、どのような投資が社会を良くするかという本質的な部分を学べる本ばかりだ。

 

これから投資をする、もしくは勉強をしたいという人には、藤野氏の書籍を数冊読むことをまずはお勧めしたい。

 

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ここからは『さらば、GG資本主義』で藤野氏が述べていたことをまとめていく。

 

 

 

日本の成長を妨げる高齢化

高齢化問題は社会保障や財政に与えるダメージに関心が集まりやすいが、会社や経済においても重大な悪影響を与えていると藤野氏は語る。

 

それは、いつまでも上の世代がいなくならないことだ。

 

 

高齢化社会では60歳になっても「先輩」がいなくならない。

上の世代がいつまでも重要なポストに居座り、会社の内部の新陳代謝が起きにくくなっているのだ。

 

その結果、若い世代が力を発揮する場所がほとんどなく、社会に新しい価値観が根付かない。

 

 

これは部活に例えると深刻さがよくわかるのではないだろうか。

 

普通、上の代が引退することでその年の部活動の問題点(チーム内の規律や戦術)を改めることができる。

 

3年神様、2年平民、1年奴隷

 

なんて部活は今どき絶滅危惧種だろうが、それでも下の代から上の代に部活内の問題点を指摘するのは、基本的には今でも簡単なことではないだろう。

 

だが、部活では必ず1年でメンバーが入れ替わるため、組織を変えるチャンスは必ず来る。

部活という組織においては新陳代謝が約束されているのだ。

 

 

ところが、先輩がいつまでも引退せずに居座り続けたらどうなるだろうか?

あるいは、引退した後もOBとして下の代の行動に口を出し続けたら?

 

いつまでも過去のやり方に固執し続け、新しい考え方や価値観が反映される日は来ない。

 

こんな部活は地獄としか言いようがないだろう。

 

 

残念なことに、これと同じことが実際に今の日本で起きているというのだ。

本の中では、その現状が如実に表れた例としてある企業の内部騒動が紹介されている。

 

その企業では80代の顧問が60歳間近の社長を半人前扱いし、社長が「自分はもう大人です」と反論しなくてはならない事態に発展した。

 

具体的にどの企業なのかは本を読んで確かめてほしいが、60歳間近にもなって80代の「先輩」に口出しされるなんて信じられるだろうか?

 

 

藤野氏は、上の世代が重要なポストに居座り続けて下の世代の成長を阻害し、会社、ひいては社会が旧来型の価値観や発想から抜け出せないこの社会現象を「GG資本主義」と命名した。

 

「GG」が何を指しているか、言わずもがなだろう。

 

 

データが示す社長の適齢期

社長を務めるのは60~70代の経験豊かな人がいいというイメージがあるが、それは本当だろうか?

 

そんな問いに答えてくれるデータがある。

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『さらばGG資本主義』第1章より引用

これは上場企業の社長を年齢別にグループ分けし、3年間の株価のパフォーマンスと売上高の変化率を示したものだ。

 

社長の年齢は60代が最も多く1699社、次に多いのが50代で883社だ。

 

このデータを見ると、60代以上の社長の会社より、30代、40代の社長の会社の方が株価においても売上高においても上昇率が高いことがわかる。

 

もちろん、社長が若い会社は新しくできた会社で成長スピードが速く、社長が高齢であることが多い大企業では成長が鈍いという理由もある。

 

しかし、大企業であっても社長が若返って業績が伸びることがよくあり、若い社長ほど時代の流れに乗りやすく柔軟な思考ができるというのは、僕たちの実感とも合うのではないだろうか。

 

 

藤野氏は、GGがトップに君臨することをやめ、権限と責任を若い世代に託すことで企業はもちろん経済や社会も成長していくのではないかと述べている。

「失われた20年」など存在しない?

1990年代のバブル崩壊から2010年代初頭までは、「失われた20年」と呼ばれるデフレ時代だった。

 

「日本経済は元気がない」と語られるときに必ず挙げられる「失われた20年」だが、ファンドマネージャーとして日本の成長企業を探し続けていた藤野氏は、そんなものは幻想だと語る。

 

 

藤野氏は、「失われた20年」と呼ばれる時代に業績が低迷したのは大企業だけであり、ベンチャー企業や中堅・中小企業の多くはデフレ経済下でも業績を伸ばし、株価も伸びていたと指摘している。 

 

「失われた20年」とは、企業の業績を報じるメディアも情報の受け手も、どちらも大企業ばかりに注目したことで生まれた幻想だというのだ。

 

大学生の就職希望ランキングの上位に大企業の名前ばかりが並ぶのと同様に、日本という国が過度に大企業にばかり注目していることで現実を歪めて捉えてしまっているのかもしれない。

 

 

大企業で業績が低迷した理由

では、なぜ大企業では業績が低迷していたのか?

 

その原因はサラリーマン社長の給与システムにある

 

 

サラリーマン社長は年俸が決められており、新しい挑戦をして会社の業績が伸びても自分の給料はそれほど上がらない。


ところが業績を悪化させれば株主から責められ、退任に追い込まれる可能性がある。

 

そう、日本の大企業では社長がリスクをとりにくい環境になっているのだ。 

 

こんな環境では任期を終えるまで経営に波風を立てずに過ごすことが目標になるのは仕方がないだろう。

 

 

そしてこれは社長に限らず、もっと下の管理職レベルでも同様だ。

 

リスクをとって新しいチャレンジで業績を伸ばしても自分にはほとんどリターンがないのに、失敗すれば昇進や昇給に悪影響を及ぼす。

 

こんな状況で誰が会社の業績を伸ばそうとチャレンジするだろうか?

 

みんな定年を迎えるまで波風立てずに日々の業務をやり過ごそうとするに決まってる。

 

 

トップも管理職もリスクをとらず、チャレンジしない。

これが日本の大企業の業績が低迷し続けた原因だ。

 

 

日本を救う3つの虎

藤野氏は、定年までの時間をやり過ごすだけの働き方、すなわち自分の良心を捨てて会社に飼いならされる働き方こそがGG資本主義の継続に加担していると指摘する。

 

2017年の流行語大賞に「忖度」が選ばれたように、権力や権威に迎合し、自分の信念やアイディアを自粛する雰囲気が今の日本には満ちている。

 

こうした状況を抜け出すために、藤野氏は「虎になる生き方」を提案している。

 

群れを成すライオンのような生き方ではなく、単独で行動しスキルを磨いて獲物を獲得する虎のように、自立した生き方を目指せということだ。

 

 

藤野さんは日本を救う3つの虎が存在すると語る。

 

  • 東京などの都市で起業し、活躍する「ベンチャーの虎」
  • 地方を引っ張るリーダーである「ヤンキーの虎」
  • 会社の中で存在感を発揮する「社員の虎」 

 

1つ目のベンチャーの虎は、主にITの技術を使って社会を変えようと奮闘する起業家たちのことだ。

 

様々な人や情報が集まる東京を拠点とし、最初からIPOを目指すことも多い。

 

前澤友作のような、テレビでよく取り上げられるタイプの経営者をイメージすればいいだろう。

 

 

 

2つ目のヤンキーの虎は地元を中心に様々な事業を展開する起業家たちのことだ。

傘下企業を増やしてホールディングス化することが多い。

 

彼らは仕事での大きな成功や出世よりも変化の少ない日常を楽しみ、家族や学生時代からの友人とのつながりを大切にするという特徴がある。

 

地元で暮らしながら働きたいと考える人たちにとって、ヤンキーの虎は人口減少・高齢化が進む地方で雇用を創出する重要な存在だ。

 

ヤンキーの虎についてもっと知りたい方は、藤野氏の著書『ヤンキーの虎』をぜひ一読してみてほしい。

 

僕自身も地方に住んでいるのだが、自分の地元にもヤンキーの虎と呼べる企業が存在し、様々なビジネスを展開していることに気付いた。

 

「起業」という言葉に「東京で一発当てる」みたいなイメージを持っている人には、地方にも大きなチャンスがあるのだという気付きが得られる一冊だと思う。

 

 

 

そして3つ目の社員の虎について。

 

藤野さんは社員の虎を、

 

「会社員でありながら、組織の意向を慮るよりも自分の意思・良心に従い、会社のリソースを使って、顧客のために働く社員」

 

 と定義している。

 

日本は労働基準法で解雇理由が厳しく制限されていて、会社員の雇用が強く守られている。(だからこそ会社には転勤を命じるような強い権限があるわけだが)

 

よほどのことがない限り雇用を保証されているというサラリーマンの強みを理解すれば、「社畜になるか転職か」という二択だけの会社員生活を送る必要はなく、自由に働くことも可能だという。

 

ただし、社員の虎になるには3つの条件がある。

 

  1. 仕事で圧倒的な成果を上げる
  2. 顧客から信頼される
  3. 会社の中に強力な庇護者がいる

 

1の仕事で圧倒的な成果を上げるというのは、社員の虎になるうえでも最も重要なことだろう。

 

成果も出さずに好き勝手なことをやっていたら、ただのウザイ部下・同僚になってしまう。

 

2の顧客からの信頼も重要だ。

 

顧客が喜んでくれた結果、モノやサービスが売れる。

そしてますます働き甲斐が生まれ、さらに顧客が喜ぶという好循環はすべての仕事において必要なものだろう。

 

そして3の強力な庇護者も欠かせない。

 

協調・安定を重視する組織の中でチャレンジを繰り返す社員は、日々の業務を平穏にこなすだけの生活を望む大多数の社員にとって疎ましいものだろう。

 

有力な地位にある理解者を獲得することは、社員の虎になるために不可欠なリスクヘッジと言えるだろう。

 

 

GG資本主義は駆逐できるか?

ここまで『さらば、GG資本主義』の内容をまとめてきた。

 

日本経済の停滞(=大企業の停滞)がなぜ起きたのか、サラリーマンが目指すべき働き方とは何か、藤野さんの考えは非常に納得させられるものだった。

 

 

 

藤野さんが言うように、日本の未来はメディアでよく語られるような悪いものではないのかもしれない。

 

ただ、GG資本主義は当分の間、大企業の中で脈々と続いていくだろうとも感じた。

 

 

GG資本主義とは、日本企業に根付いた終身雇用や年功序列といったシステムをベースにしたものだ。

それを駆逐するということは、定年までの時間を波風立てずに過ごせば幸せな人生を送れた時代を終わらせるということだ。

 

つまり、終身雇用・年功序列の完全終了と完全実力主義社会の実現を意味する。

 

 

ネットを見ていると、「終身雇用や年功序列はオワコン」などと言いながら実力主義の社会を求める声が目立ち、若い世代には実力主義を求める人が多いように錯覚する。

 

しかし、メンバーシップ型雇用が長年続いてきた日本では若年層を含めて実力主義の社会を生き残る力がある人はごく少数だし、実力主義社会を求める人はもっと少数だろう。

 

今日会社を辞めて、来週には次の職場が見つかるという日本人がどれだけいるだろうか?

 

 

もちろん、日本がジョブ型雇用の社会に変化していけば自然と実力主義は社会に浸透し、GG資本主義は駆逐されるだろう。

 

ただ、そのためにはメンバーシップ型雇用の時代に就職した、「会社にしがみついて生きるしかない世代」の引退を待たなくてはならないだろう。

 

地動説がヨーロッパで認められたのは天動説の間違いが証明されたからではなく、天動説を信じる世代が死に絶えたからだ。